人気ブログランキング | 話題のタグを見る

キーワードは多様性

なんとなく図書館で手に取ったこの本、
キーワードは多様性_b0317003_20411247.jpg
こういう類の本は字が小さくて分厚い上に、外国映画の吹き替え版のような雰囲気が合わなくて読み進められずに挫折、ということもあるのですが、思った以上に面白くて興味深い内容でした。

ワタクシはダイエットに興味があったのではなくて、食べ物や食べ方の情報が氾濫している中で、何かそれについて考える指標のようなものが得られないかと思ったのです。

今の世の中、とにかく食べ物についての情報は膨大で、何を食べた方がいい、とか、あるいは食べない方がいい、とか、体にいいとか悪いとか、こうして食べた方がいい、とかなんとかかんとか、もはやワタクシには何が何だかさっぱり分からない感じです。

かく言うワタクシは、食についてこだわっている、と思われがちですが、実は「特別なことは何もしていない」と言えます。

何かを食べない、とか避けている、というものもないし、健康のためにやっている食習慣、というのも特にないのです。少し無頓着すぎるかもしれない、と思っているところです。

なので、世に氾濫する「これを食べれば~」とか「これは食べない方が~」とかいう話は一体どこまで本当なのだろうか、という思いがあり、またそれらをどう考えればいいのだろうか、という思いもありました。

そして、この本に書かれてある一つの真実に納得しました。

それは、誰一人として同じ腸内細菌を持ったヒトはいないから、食べたものに対する体の反応は一人一人みんな違う、ということです。

著者は長年、双子を対象にした研究なども行っているそうですが、同じ遺伝子を持ち、同じ環境で同じ食べ物を食べて育っても、一方は太り、もう一方は太らない、ということもあり、それを説明するのに、腸内細菌のコミュニティの違い、ということがありそうです。

そして、確実に言えることは、例えばアフリカなどの民族で伝統的な暮らしを守っている人は現代文明の中で暮らしている人よりも腸内細菌の種類が多く、多様性に富んでいる、ということだそうです。

ヒトの健康を司る一つの鍵は「腸内細菌の多様性」、ということが言えそうです。

だからと言って、今流行りの、腸まで届くなんとか菌、というのが誰にでも有効ということはないし、これを食べれば大丈夫、というような魔法の食べ物もない、というのは、前述したように腸内の環境は一人一人みんな違うからです。

そしてこの本の中で、ワタクシにとっては、実に実に興味深い記述がアレルギーに関する項目にありました。

その部分をそのまま書いてみます。

「新生児のときに多様性に富んだマイクロバイオーム(人間の腸や口腔、あるいは土壌中にある微生物のコミュニティ)をもっていることは、将来のアレルギーのリスクを減らす上で不可欠のようだ。その多様性をもたらすのは母乳だが、それを支えているのは、母親の健康的な食事であり、遅めの離乳であり、家がそれほど清潔でないことだ。」

この最後の「家が清潔でない」というところに「おっ」と思ったワタクシがさらに読み進めていきますと、

「衛生仮説と清潔ヒステリー」という中見出しがあり、このように続いていました。

「アレルギーに関心のある人なら、『衛生仮説』という言葉を聞いたことがあるかもしれない。この仮説の生みの親であるデイヴィット・ストラカンは、子どものぜんそくや湿疹の発生状況を誕生時から追跡した全国規模のデータを見て、強い興味を持った。ストラカンが気づいたのは、イギリスでは湿気の多い住環境とアレルギーの発症の間に相関関係があることだった。ただしその相関関係は、直感的に予想されるようなものではなかった。湿気の多い劣悪な住環境や、家族が多くて狭苦しい家のほうが、実際にはアレルギーが起こりにくかったのだ。」

ここまで読んで、この最後の文章、すなわち「湿気の多い」「家族が多くて狭苦しい家」というのは、まさにわが家のことではないか!と苦笑、しかし、確かに家族全員、誰も何のアレルギーもありません。

そしてさらに読み進めていくと、
 
「この結果は、バイアスの原因となりうる別の要素を調整しても変わらず、ほかの国でも裏付けとなるデータが得られている。このようにして、行きすぎた衛生観念が現代のアレルギー疾患の原因となったという仮説が生まれたのだ。
 あまり衛生的でない環境で、日常的に動物と接したり、寄生虫に感染したりしながら育った人というのは、せんそくやアレルギーにかからないようだった。」

とあり、「そうか、そうだったのか!」と激しく納得したことでした。

さらに長文ですが、この章の最後の文章を、ワタクシはどうしてもここに紹介しておきたいと思います。

「アレルギーをもつ子どもの母親の多くは、罪悪感に苛まれて、死をもたらすほど危険なアレルゲンの攻撃から子どもたちを守ろうとする。アレルゲンを含むほこりや動物の毛を取り除いて、自分の家を、無菌実験室として使えるほど清潔な状態に保とうと大変な労力を費やしているのだ。そればかりでなく、ナッツやグルテン、小麦、卵がほんのひとかけらでも食物に入り込むのを心配するあまり、食事をしていても、ボルジア家の祝宴に出ているような気分になってしまう人もいる。
 ナッツアレルギーが死につながる場合があるのを考えれば、この不安はもちろん理解できる。しかしその一方で、家を農場のような状態にしてペットや、なんならブタを飼ったりすると、アレルギーの発症率が高くなるどころか、むしろ低くなるという研究もある。ペットと暮らすことには、長生き、アレルギーの低減、うつになりにくくなる、など健康上のメリットがいくつかある。そうしたメリットの一部は、ペットの毛の汚れだけでなく、多様性に富んだペットの腸内細菌からもたらされるものだ。
 汚れや多様性を友人として受け入れること、そして食物不耐性が重大な病気だという考えを捨て去ることは、たしかに難しい注文なのだろう。しかし、次の世代のことを考えるなら、それは重要なことだと言えるかもしれない。」

最後の一文にワタクシは殆ど泣きそうになってしまいました。

人間以外の生き物を、何か汚いモノ不潔なモノ、あたかも「バイ菌の塊」のように思って排除しようとする傾向に、ワタクシはものすごく心を痛めていたし、また、その不寛容な世の中に、危機感を持っていたからです。

「汚れや多様性を友人として受け入れること、それが次世代のために重要」ということを、最先端の研究をしている科学者が言って下さっていることは、大きな希望になりました。

あ、だからといって、家やお店、それに農場を汚れ放題にするわけでは、もちろんありません。普通に清潔な環境にしておく努力は、自分にとっては最も必要なこと、ということには変わりありません。苦手な掃除をしなくていい、という理由にはなりませんから。

しかしながら、「うとん山農場」&「木ノ口かたし」の田んぼの活動、動物たちとのふれあい体験、みんなでする味噌作りなどなどは、皆さまの腸内細菌の多様性のためにも実に貢献できる活動ではないか、と思い、ますます自信を持って進めていきたい、と思った次第でありました。

そして、また「田舎での子育て」をおススメできる大きな利点が一つ、追加されたような気がします。

そんな理屈を抜きにしても、田舎での子育ては楽しいのですから、ワタクシはいつでもおススメいたします。























by sanahefuji | 2017-10-20 07:57 | | Comments(0)

ここは五島列島福江島。「かたし」とは椿の古い呼び名です。2001年にIターンして就農した私たちが週に一度、土曜日だけやっている直売所&飲食店、ときどき居酒屋(居酒屋は予約制)「かたし」(2016年に「木ノ口かたし」に改名)での出来事、五島の暮らしの日常などなど。日本の端っこで繰り広げられる、ささやかな人生劇場を綴っていきます。


by 山﨑早苗